2026年度 鹿児島市立鹿児島玉龍高等学校 3学年

探究テーマ
二人零和有限確定完全情報ゲームにおける戦略性を高めるルール設計の研究
―オリジナルボードゲーム制作を通して―
①テーマ設定の背景
将棋やチェスに代表される二人零和有限確定完全情報ゲームは、運の要素が存在せず、すべての情報がプレイヤーに公開されているという特徴を持つ。
そのため、勝敗は偶然ではなく、プレイヤーの判断や戦略の積み重ねによって決定される。
このようなゲームは、論理的思考力や先を見通す力を育成する教材としても注目されており、実際に教育現場での活用や研究も行われている。
しかし、既存のゲームは完成された形で提供されているため、「どのようなルール構造が戦略性を生み出しているのか」「ルールを変更するとゲーム性はどのように変化するのか」といった点を内部構造から検討する機会は少ない。
先行研究では、良いゲームの条件として「意味のある選択(Meaningful Choice)」の存在が重要であると指摘されている。
Salen & Zimmerman(2004)は、意味のある選択とは、「選択肢ごとに結果の違いがあり、その結果がプレイヤーに理解可能で、ゲームの進行や結果に影響を与えるものである」と述べている。この条件が満たされない場合、プレイヤーは深く考える必要がなくなり、戦略性は低下するとされている。
また、ゲームデザイン理論においては、行動にトレードオフや不利要素を伴わせることが、意思決定を興味深いものにし、戦略的判断を生むと広く指摘されている(Schell, 2008)。
さらに、将棋やチェスのような二人零和有限確定完全情報ゲームでは、運の要素が存在しないため、ゲームの戦略性は選択肢の構造やルール設計に大きく依存することが知られている。そのため、ルール設計の違いがゲーム展開や戦略の多様性に直接的な影響を与えると考えられる。
以上の先行研究を踏まえ本研究では、将棋やチェスを参考に、オリジナルのボードゲームを制作し、「選択肢に付随するリスクとリターンの設計」および「行動や能力に対する制約条件」に着目してルール設計を行う中で戦略性がどのように生じ、また失われるのかを検討することを目的とする。
特に、本研究では以下の点に着目する。
・プレイヤーの選択肢が「意味のある選択」になっているか
・選択に明確なリスクとリターンが存在しているか
・ゲーム展開が固定化せず、戦略性が生まれているか
また、先行研究から考えるに、単に行動の種類が多いことや、駒の数が多いことが、必ずしも戦略性の高さを意味するとは限らない。
したがって、本研究では、「戦略性」という概念を次のように定義する。
「プレイヤーが各手番において、複数の有効な選択肢の中から判断を迫られ、
その選択が盤面の展開や勝敗に影響を及ぼす状態」
これに伴い、本研究では「戦略性の向上」を以下の観点から判断した。
・手番においてプレイヤーが検討した選択肢の数
・「迷う」「悩む」といった発言が生じた場面の有無
・序盤・中盤・終盤において有効な行動が変化するかどうか
これらを、テストプレイ中の観察記録および対戦後の聞き取りをもとに定性的に分析した。
②仮説
本研究の目的は、二人零和有限確定完全情報ゲームにおいて、行動に付随するリスクとリターンの設計が、戦略の固定化をどのように抑制するかを明らかにすることである。これに伴い以下の三つの仮説を考案した。
仮説1
二人零和有限確定完全情報ゲームにおいて、プレイヤーの選択肢に明確なリスクとリターンを持たせた場合、単一の最適行動に収束しにくくなり、戦略的展開の多様性が高まる。
仮説2
駒に固有の能力を設ける際、使用条件や不利な効果といった制約を設けることで、
リスクとリターンを両立でき、使用タイミングにおいてプレイヤーの思考が促される。
仮説3
先行研究で示されている設計原理を反映させた改良版ルールでは、
初期版と比較してプレイヤーが複数の選択肢の間で判断を要する局面が増加し、
ゲーム展開が固定化しにくくなる。
③調査方法
(1)研究の方法の概要
本研究は、オリジナルボードゲームの制作とテストプレイを通して、二人零和有限確定完全情報ゲームにおけるルール設計と戦略性の関係を検証する制作・検証型の探究研究である。
実験的に条件を統制する大規模調査ではなく、先行研究で示されている設計原理をもとに仮説を立て、ゲームの初期版と改良版を比較することで、ルール設計の違いがゲーム展開に与える影響を分析した。
本研究では、ルール設計の違いが戦略性に与える影響を明確にするため、初期版ルールと改良版ルールの比較において、意図的に固定する条件と変更する条件を設定した。
以下は意図的に固定した条件である。
・プレイヤー人数を二人とすること
・完全情報ゲームであり、すべての情報が盤面上に公開されていること
・運要素(サイコロやカードによるランダム性)を導入しないこと
・一方の利益がもう一方の損失となるように作ること
・勝利条件(詳細は付録参照)
これらの条件を固定することで、戦略性の変化が盤面構造や勝利条件の違いによるものではなく、駒の能力やルール設計の差異に起因するものであると判断できるようにした。
一方で、本研究において主に変更した条件は、駒の能力に付与された制約やリスクの内容である。
具体的には、全ての駒に対して、使用条件の追加や破壊といった不利な効果を付与することで、行動選択に伴うトレードオフの構造を調整した。また、駒の種類や数についても、単なる量的増加ではなく、各駒が果たす役割や相互関係が戦略的判断にどのように影響するかという観点から調整を行った。
このように、基本条件を固定した上で、ルール設計上の特定要素のみを変更する比較を行うことで、本研究では、二人零和有限確定完全情報ゲームにおける戦略性の変化を、ルール設計との関係として検討した。
(2)ルール案生成段階
まず、二人零和有限確定完全情報ゲームを一から設計することは困難であると考え、発想支援の手段として生成系AIを用いた。
ChatGPTに対し、「運要素を含まないこと」「二人対戦であること」「すべての情報が盤面上で共有されること」といった条件を与え、複数のゲーム案を生成させた。
その後、得られた案を比較・検討し、戦略性が生まれる可能性のある要素を抽出した上で、本研究の目的に最も適すると判断した案を基に、ルールの再設計を行った。
(3)初期版ルールの作成
次に、選択したルール案をもとに、将棋を参考にした盤面構造や駒の配置を設定し、初期版ルールを作成した。
初期版では、先行研究で示されている設計原理の一部を意識しつつも、あえて制約を少なめに設定し、戦略が固定化しやすい状態を含んだルールとした。これは、後の改良過程で設計原理の有無による違いを比較するためである。
(4)テストプレイと問題点の記録
作成した初期版ルールを用いて、友人数名との対戦形式で複数回のテストプレイを行った。
テストプレイでは、以下の点を中心に観察・記録した。
・特定の行動や駒が過度に有利になっていないか
・毎回同様の展開に収束していないか
・プレイヤーが選択に迷う場面が存在するか
また、対戦後には簡単な感想を聞き取り、どの場面で考えたか、あるいは考える必要がなかったかを整理した。
(5)先行研究に基づくルール改良
テストプレイによって明らかになった問題点について、先行研究で示されている「意味のある選択」「リスクとリターンの明確化」といった設計原理と照らし合わせながら分析を行った。
例えば、特定の行動が常に最適解となっていた場合には、その行動に不利な条件や制約を追加することで、選択に伴うリスクを明確にした。
また、ゲームの根幹となるようなルール(付録参照)を新たに導入、削除するようなことはしなかった。
これは、初期版と改良版の差異が、設計原理によるものかを比較しやすくするためである。
なお、融合・破壊・分離といった基本ルールの詳細は付録を参照されたい。
図1 完成した初期版
(6)改良版ルールの検証と完成
改良後のルールを用いて再度テストプレイを行い、初期版と比較して、「戦略の選択肢が増えたか」「展開が固定化しにくくなったか」「プレイヤーが判断に迷う場面が増えたか」を確認した。
これらの観点から先行研究で示されている設計原理が実際のプレイ体験にどのような影響を与えたかを考察し、最終的な完成版ルールを制作した。
研究結果
1 研究結果の概要
本研究では、二人零和有限確定完全情報ゲームにおけるルール設計と戦略性の関係を明らかにするため、オリジナルボードゲームを制作し、テストプレイと改良を計6回繰り返した。
本章では、初期版ルールの形成過程から完成版に至るまでの改良の流れを示し、各段階で確認された問題点、テストプレイヤーの感想、およびそれに基づく改善内容を整理する。
2 初期版ルールの形成過程
初期版ルールは、二人零和有限確定完全情報ゲームの基本構造を把握するため、ChatGPTに対して「運要素を含まない二人対戦型のボードゲーム案」を条件として提示し、複数のルール案を生成させたことから始まった。
その中で、「駒が自壊する」「複数の駒が融合して別の駒になる」という案が提示された。
これらの要素は、「駒の使用にリスクが伴う」「盤面が固定化しにくく、局面が動的に変化する」という点で、先行研究で示されている「意味のある選択」や「リスクとリターンの関係」を含む可能性があると考えられた。
そのため、本研究ではこの案を初期版の中核として採用し、盤面構造や移動ルールを将棋に近い形に調整することで、実際に対戦可能な初期版ルールを作成した。
④結果・分析
1 研究結果の概要
本研究では、二人零和有限確定完全情報ゲームにおけるルール設計と戦略性の関係を明らかにするため、オリジナルボードゲームを制作し、テストプレイと改良を計6回繰り返した。
本章では、初期版ルールの形成過程から完成版に至るまでの改良の流れを示し、各段階で確認された問題点、テストプレイヤーの感想、およびそれに基づく改善内容を整理する。
2 初期版ルールの形成過程
初期版ルールは、二人零和有限確定完全情報ゲームの基本構造を把握するため、ChatGPTに対して「運要素を含まない二人対戦型のボードゲーム案」を条件として提示し、複数のルール案を生成させたことから始まった。
その中で、「駒が自壊する」「複数の駒が融合して別の駒になる」という案が提示された。
これらの要素は、「駒の使用にリスクが伴う」「盤面が固定化しにくく、局面が動的に変化する」という点で、先行研究で示されている「意味のある選択」や「リスクとリターンの関係」を含む可能性があると考えられた。
そのため、本研究ではこの案を初期版の中核として採用し、盤面構造や移動ルールを将棋に近い形に調整することで、実際に対戦可能な初期版ルールを作成した。
3改良の過程
改良①:初期版における単調さの問題
問題点
初期版で複数回テストプレイを行った結果、有効な行動が限られており、毎回似た展開に収束する傾向が確認された。
特に、序盤で有利・不利が決定すると、その後の展開が大きく変化せず、戦局が固定化しやすいという問題が見られた。
テストプレイヤーの感想
「やることが毎回同じで、あまり考えなくても進む」
「途中から流れが変わらず、少しつまらない」
改善内容
この単調さの要因を「選択肢の少なさ」にあると考え、選択肢そのものを増やすため駒の数を増やし、それに伴う移動範囲の縮小を防ぐため盤面を拡張する改善を行った。
分析
この問題は、先行研究で示されている「意味のある選択」が成立していない状態であったと解釈できる。

改良②:リスク要素の導入
問題
特定の駒(壁や砲など)が極端に強力となり、それらを中心とした戦術が最適解として固定化する状況が生じた。
テストプレイヤーの感想
「砲を出した方がほぼ勝てる」
改善内容
支配的となっていた強力な駒に対し、使用条件の追加、能力の弱体化、移動範囲の縮小といったリスク要素を導入した。
また、新しく強力な駒を追加して、戦力の分散を図った。
結果
駒の使用タイミングについて考える必要が生まれ、即座に使用される場面は減少した。
テストプレイヤーの感想
「今使うか温存するかで迷う」
「(以前は強力だった駒を)ほとんど使わなくなった」
分析
選択にリスクが伴うことで一時的に戦略性は増加したが、リスクに対して得られるリターンが小さいと認識された行動は、プレイヤーの判断過程から除外される傾向が見られ、結果として有効な選択肢の数が減少し、戦略性が再び低下することが明らかになった。これは、先行研究で指摘されている「支配的戦略の存在が戦略性を低下させる」という問題に該当する。

改良③:駒数増加による混乱の改善
問題点
駒数を増やした結果、選択肢自体は増加したものの、盤面全体の把握が難しくなり、どの情報を基準に判断すればよいか分からないという問題が生じた。
テストプレイヤーの感想
「情報が多すぎて、どれが重要か分からない」
「考える前に疲れてしまう」
改善内容
各駒の役割を明確にし、攻撃・回復・妨害などの機能を分担させることで、判断基準を整理しやすくした。
分析
この結果から、選択肢の量を単に増やすだけでは戦略性は向上しないことが示唆された。

改良④:リスクとリターンの再調整
問題点
前回の調整では、駒ごとの役職を明確にしただけであり、戦略性の低さという根本的な問題は解決されていなかった。
改善内容
「リスクとリターンが釣り合っているか」
「他の駒とのバランスが取れているか」
という点を重視し、駒の能力や移動範囲を再度調整した。
また、複数の駒を同時に活用する戦略を立てやすくするため、駒を複数動かせる能力や、駒を保護する能力を追加した。
テストプレイヤーの感想
「面白い」
「(戦略を)考える場面がいっぱいあった」
分析
各駒のリスクとリターンが釣り合ったことで、プレイヤーの取れる選択肢が増加し、戦略性が高まった。また、面白い等、好意的な感想が増えた。これらは打つ手を思考する楽しさによるもので、戦略性が高まったことに起因すると考えられる。

改良⑤:終盤の単調化への対応
問題点
終盤になると駒数が減少し、再び選択肢が少なくなる傾向が見られた。
改善内容
終盤でも局面を変化させられる能力の追加や、移動範囲の調整をした。使用頻度の低かった駒を削除した。
テストプレイヤーの感想
「最後までどうなるか分からなくなった」
「ゲームとして成立していた」
分析
終盤でも動かせる駒が増え、戦略性が低下しなくなった。また、駒数が減ったことで、一手の重みが増し、より思考が重要になった。これも戦略性を高める一因になっていると考えられる。

改良⑥:完成版への最終調整
最終段階では、効果が分かりにくかったルールの整理を行い、完成版ルールとした。
テストプレイヤーの感想
「毎回違う展開になる」
「前より考える時間が増えた」
分析
これらの感想から、ルールの理解が容易になったことで、プレイヤーが意思決定に集中できるようになり、戦略性が安定して発揮される完成版に到達したと考えられる。

総合分析
本研究を通して、完全情報二人零和ゲームにおける戦略性は、単にルールや駒の数を増やすことによって生まれるものではないことが明らかになった。また、戦略性を高めるためには単にリスクを付与するのでは不十分であり、プレイヤーがそのリスクを「引き受ける価値がある」と認識できる水準でリターンを設計する必要があることが明らかとなった。
改良初期では、単調さへの対策として選択肢の量的増加を行ったが、その結果として情報過多や支配的戦略の発生を招いた。
一方、後期の改良では、選択肢同士の関係性やリスクとリターンの設計に重点を置いたことで、プレイヤーが各手番において判断を迫られる構造が形成された。
また、仮説については以下のような結果となった。
仮説1は改良②〜④で支持された。
これは、支配的戦略が抑制され、プレイヤーが状況に応じて複数の行動を選択する必要が生じたためである。
仮説2は改良②において部分的に支持されたが、改良③以降では必ずしも支持されなかった。
これは、リスクとリターンの付与が選択の多様化を促す一方で、その量や複雑さが増すと判断負荷が高まり、戦略的思考を阻害する場合が確認されたためである。
仮説3は初期版と完成版の比較により支持された。
これは、ルール制約と駒同士の相互作用を調整することで、二人零和有限確定完全情報ゲームであっても複数の戦略が共存する状態を構築できたためである。
⑤まとめ
本研究では、将棋を基盤としたオリジナルボードゲームの制作を通して、二人零和有限確定完全情報ゲームにおけるルール設計と戦略性の関係を検証した。特に、先行研究で示されている「意味のある選択」や「リスクとリターンの明確化」といった設計原理をルール設計に意識的に取り入れた場合、ゲームの戦略的展開やプレイヤーの思考の幅がどのように変化するかを考察した。
その結果、以下の知見が得られた。
第一に、強力な行動に対して明確な制約や不利な要素を設けることで、プレイヤーは行動の使用タイミングを慎重に判断するようになり、戦略的思考が促進されることが、テストプレイ中の行動選択やプレイヤーの発言傾向から確認された。これは、Salen & Zimmerman が述べる「意味のある選択には結果の差異と理解可能性が必要である」という理論と一致する結果である。
第二に、選択肢が一見同程度の利点を持つ場合であっても、リスクの種類や発生条件が異なることで、ゲーム展開が固定化しにくくなることが明らかになった。初期版では特定の戦略が優位になりやすかったのに対し、改良版ではプレイヤーごとに異なる戦略が選択される場面が増加した。
第三に、完全情報ゲームにおいては、情報量そのものよりも、選択肢同士の相互関係やトレードオフの設計が、戦略性に大きく影響することが示された。これは、完全情報ゲームの戦略性がルール構造に強く依存するという先行研究の指摘を、実際の制作および検証を通して具体的に示したものといえる。
以上より、完全情報二人零和ゲームにおいては、行動に付随するリスクとリターンを「即時的な損得」だけでなく「将来的な盤面制約」や「他行動との相互作用」として設計することで、単一の最適解が成立しにくくなり、戦略の固定化が抑制されることが明らかになった。
一方で、本研究は少人数によるテストプレイを中心とした定性的分析にとどまっており、戦略性の変化を数量的に測定するには限界がある。今後は、テストプレイ回数や参加者数を増やすとともに、勝率や思考時間などの指標を用いた分析を行うことで、より客観的な検証が可能になると考えられる。
本研究は、完成されたゲームを分析するのではなく、ルールを設計・改良する過程そのものを通して、戦略性がどのように生じるかを検討した点に意義がある。
⑥残論点・今後の課題
本研究では、二人零和有限確定完全情報ゲームにおけるルール設計と戦略性の関係について、オリジナルボードゲームの制作および改良を通して検討した。その結果、選択肢に明確なリスクとリターンを持たせることや、支配的戦術が生じないよう制約を設けることが、戦略の多様性を高める上で有効であることが示唆された。一方で、本研究にはいくつかの残された論点がある。
第一に、評価が主観的なプレイヤーの感想に依存している点である。本研究では、テストプレイヤーからの「考える場面が増えた」「単調さが減った」といった意見をもとに分析を行ったが、思考時間や選択肢の分岐数といった客観的指標を十分に測定できていない。今後は、1試合あたりの思考時間や行動パターンの記録など、定量的データを用いた分析が課題となる。
第二に、テストプレイヤーの人数および属性が限定的であった点である。本研究では主に友人同士での対戦を用いて検証を行ったため、プレイヤーの経験値や思考傾向が結果に影響している可能性がある。今後は、ボードゲーム経験の有無や年齢層の異なるプレイヤーを対象にテストを行い、より一般性のある検証を行う必要がある。
第三に、AIを用いた初期ルール生成の影響について十分に検討できていない点が挙げられる。本研究では生成系AIから得られた案を初期版として採用したが、人間のみで設計した場合との比較は行っていない。今後は、AIによるルール案と人間によるルール案を比較し、ゲームデザインにおけるAI活用の有効性や限界を検討することも課題である。
以上の課題を踏まえ、今後は客観的評価指標の導入、検証人数の拡大、設計手法の比較を行うことで、ルール設計と戦略性の関係をより多角的に明らかにしていきたい。
参考文献
Salen, K., & Zimmerman, E. (2004). Rules of Play: Game Design Fundamentals. MIT Press.
Schell, J. (2008). The Art of Game Design: A Book of Lenses. CRC Press.
付録:オリジナルボードゲーム ルール概要
A.1 ゲームの概要
本ゲームは、二人零和有限確定完全情報ゲームである。
本ゲームは、将棋やチェスといった既存の完全情報ゲームを参考にしつつ、「駒の融合」および「駒の破壊」という独自の要素を取り入れて設計されている。
A.2 使用物
ゲーム盤:9×9マスの正方形盤
駒:各プレイヤー共通の駒セット(詳細はA.3参照)
A.3 駒の種類と基本能力
本ゲームでは、以下の種類の駒を使用する。
王:敗北条件に直接関わる重要な駒
攻撃系駒:条件を満たすことで相手の駒をより多く取る能力を持つ
回復系駒:条件を満たすことで除去された味方の駒を再配置できる
妨害系駒:条件を満たすことで相手駒の移動や行動に制限を与える能力を持つ
支援系駒:条件を満たすことで味方駒の移動・能力を補助する効果を持つ
各駒の詳細な移動範囲および能力については、ゲーム開始前にプレイヤー双方へ説明される。
A.4 ゲームの準備
ゲーム盤を中央に配置する。
両プレイヤーは、定められた初期配置に従って駒を配置する。
先手・後手を決定し、先手からゲームを開始する。
A.5 ターンの流れ
プレイヤーは交互にターンを行う。
1ターンでは、原則として駒を1つ選択して移動させる。
融合・分離などの特殊処理は、移動に付随して発生する。
行動終了後、ターンは相手プレイヤーに移る。
A.6 融合ルール
融合とは、特定の条件を満たした複数の駒を合体させ、新たな駒を生成する行動である。
融合を行うには、駒同士が隣接していることや、使用できる駒の個数に制限があるなど、所定の条件を満たす必要がある。
融合によって生成された駒は強力な能力を持つ一方で、使用にあたっては制限やリスクを伴う。
融合は、盤面構造や戦力配置を大きく変化させる要素であり、戦略的な局面転換を生む重要な要素として位置づけられている。
A.7 分離ルール
分離とは、融合状態にある駒を再び複数の駒に分け、盤面上に再配置する処理である。
分離は、融合体を移動させた後に自動的に発生し、配置範囲や配置先に関する制限など、所定の条件に従って行われる。
分離によって配置された駒は、それぞれ独立した駒として扱われ、以降の移動や攻撃に利用することができる。
分離は、融合によって一時的に集中した戦力を再び分散させ、盤面を再構築する戦略的要素として位置づけられている。
A.8 破壊ルール
破壊とは、駒を用いて相手の駒を取る行動に対し、必ず何らかの損失や不利が生じるよう設計された処理である。
通常の駒取りが行われた際には破壊が発生し、攻撃側・防御側の双方の駒が盤面から除去される。
このとき、破壊された駒は重ねられて「残骸」として盤上に残る。
残骸が置かれたマスは、原則として侵入不可となり、盤面上に恒常的な制約を生む。
そのため、駒を取る行動は戦力の減少だけでなく、将来的な盤面の自由度を低下させるリスクを同時に伴う。
この破壊ルールは、「取れるから取る」という単純な判断を抑制し、行動選択に慎重な思考を要求する戦略的要素として位置づけられている。
A.9 勝利条件
以下のいずれかを満たした時点で、ゲームは終了する。
相手の王を取った場合
相手が合法手を行えなくなった場合
A.10 禁止事項・補足ルール
同一局面(駒配置および手番が完全に一致する状態)の無限ループを防ぐため、同一状態の繰り返しは禁止する。
不明点が生じた場合は、事前に定めた解釈を優先する。
A.11 本研究との関係
本付録に示したルールは、本文における「ルール設計と戦略性の関係」を検討するための基盤として用いられたものである。
本文では、これらのルールに対してどのような改良を加えたか、またその結果として戦略性がどのように変化したかを分析している。
本付録では、研究過程において大きな変更を行わなかった基本ルールを中心に掲載した。
完成版の盤面構成、駒の種類、具体的な行動規則および進行例の詳細については、以下に示す参考動画を参照されたい。
ボードゲーム解説動画 融壊駒編(YouTube)
https://www.youtube.com/t/restricted_access?blocked=4